こんにちは!
あかりんご(@akaringo252588)です!
皆さん、突然ですがこの百人一首を知っていますか?
奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の
声きく時ぞ 秋は悲しき
これは有名な百人一首の一句です。
このように、日本では昔から鹿が日本人の近くで生活しており、文学にも多数登場しています。
そこで、昔の日本人はどのように鹿を捉え、そして描いてきたのかを短歌や彫刻、音楽などを例にあげて紹介していきます。
- 万葉集
現存する日本最古の和歌集。 - 短歌
5・7・5・7・7で表す和歌の一種。 - 神鹿(しんろく)
鹿を神の使いと捉えたもの。
日本文学に多数登場する鹿
詩集などの日本文学には、鹿がたくさん起用されています。
昔の日本人は鹿をどのように捉えていたのかを探るため、まずは有名な『万葉集』を見ていきましょう。
日本最古の和歌集 万葉集
万葉集は、日本最古の和歌集です。
万葉集は様々な形式の歌が集められたもので、成立は奈良時代末期と考えられています。
皇族や貴族、官僚のほか皇族、農民などの歌もあるので、多くの人の共感を呼び全国で読まれました。
和歌の特徴としては、豊かな人間性を率直に表現した歌が多く起用されていることです。
万葉集に出てくる動物
それでは万葉集に詠み込まれている動物にはどんなものがあるのでしょう?
万葉集に出てくる動物と、詩に出てくる回数をそれぞれまとめてみました。
- 鳥 600首ほど
- 犬 4首
- 兎 1首
- 牛 3首
- 馬 80首ほど
- 鹿 68首
- 猿 1首
鳥は600首ほど、馬は80首ほど詠まれていることが分かります。
また鹿は68首と、牛や犬よりも圧倒的に多くなっています。
鹿が鳴く声を詠んだものが多くありますが、中には鹿、小牡鹿(さおじか)、猪鹿(しし)という形で詠まれているものもあります。
小牡鹿(さおじか)はオスの鹿という意味の「牡鹿」に接頭語の小(さ)が付いたもの。
そして猪鹿(しし)とは古くからの日本語で、食肉を意味する言葉です。
昔、イノシシは「ゐのシシ」、鹿は「かのシシ」と呼ばれており、主に肉になる動物という意味で、「ゐのシシ」「かのシシ」などのように使われていました。
実際にどんな歌があるの?
このように様々な表現がされてきた鹿ですが、今回はその68首の中で私が厳選した3つを紹介したいと思います。
夏野行く 牡鹿の角の束の間も 妹が心を忘れて思へや
訳:夏の野を行く牡鹿の角は短いけれど、そんな短い間も私は妻のことを忘れずいつもいつも思っています。
まず一つ目は、万葉集の代表的歌人の1人と言われる柿本人麻呂が詠んだ歌です。
鹿の角は毎年生え変わるので、繁殖期が終わり冬に抜け落ちた鹿の角は、春に再び生えてきます。
そして夏を経て、秋には鹿角が立派に成長し、その角をオス同士でぶつけて、メス鹿を奪い合います。
よってこの歌に出てくるように夏のオス鹿の角は成長段階にあり、まだまだ短いのです。
この歌では短いという言葉が鹿の角、そして妻が不在のわずかな時間という2つに掛かっている部分に趣がありますね。
大和へに 君が発つ日の 近づけば 野に立つ鹿も 響(とよ)めてぞ鳴く
訳:大和にあなたが旅立つ日が近付いたので、野に立つ鹿も声を響かせて鳴いています。
二つ目は、麻田陽春という歌人が詠んだ歌です。
近日旅立ってしまう恋人のことを四六時中思っているあまり、野に立っている鹿が鳴くところを見て自分と重ねてしまうのでしょう。
鹿の鳴き声はこのように、恋人を思う寂しい気持ちを表現するために用いられることが多かったようです。
鹿の鳴き声を詠んだ歌は多いよね!
同じく万葉集に起用されている歌の中に、「野に粟(あわ)を撒いてあったら、鹿と一緒にあなたが寄ってくるだろうか…」といった内容のものもあります。
これより、当時から鹿に対して餌付けの文化があったのではないかと考えられます。
山の辺に い行くさつ男は多かれど 山にも野にもさを鹿鳴くも
訳:山辺に狩猟に行く猟師は多くても、オス鹿が鳴いています。
三つ目の作者は不明ですが、山辺の情景を描写していることから、その辺りに住んでいた人なのではないかと思います。
ここに詠まれているのは、狩りのため山に入る猟師。
そしてこの句のポイントは、オス鹿の矛盾した行動です。
オスの鹿は鳴くことで、メスを呼びます。
ですが高らかに鳴くほど、猟師に自分の居場所が分かってしまうのです。
危険を冒してまで成し遂げたい恋心がこの歌に込められているのでしょうか。
尺八や彫刻にも鹿
色々な俳句について見ていきましたが、これだけではありません。
文学だけでなく音楽や彫刻についても見ていきましょう。
尺八の演目「鹿の遠音」
実は音楽にも鹿を題材にしたものがあります。
その一つが、尺八で演奏する演目の鹿の遠音。
ちなみに尺八は竹でできた笛のことです。
この「鹿の遠音」は深山に響き渡る鹿の鳴き声をモチーフとしており、江戸時代から受け継がれてきました。
尺八を2本使って2人で演奏を行う時には、メス鹿とオス鹿に分かれて鳴き交わすような様子が描かれています。
このように、鹿の求愛行動は歌だけではなく音楽にも表現されていることが分かります。
神の鹿を表した彫刻「神鹿」
日本には、鹿を形取った彫刻も現存しています。
その例が、京都国立博物館にある神鹿です。
こちらは鎌倉時代に木で作られた2頭の鹿の作品で、重要文化財に指定されています。
この2頭はそれぞれオス鹿、メス鹿でどちらも座っている体勢で彫刻されています。
これは春日大社の神の使いとされる鹿が、狛犬に代えて置かれたものです。
狛犬と同じように、一方の鹿は口を閉じ、もう一方の鹿は鼻を高く突き上げて遠鳴きする様子が表現されています。
これは阿吽(あうん)といい、全ての始めと終わりを示しています。
このように日本の鹿に関する絵画や彫刻は、神々しく描かれているものが目立ちます。
神鹿についてもっと詳しく知りたい方は、こちらを参考にしてください!
矛盾が生まれるのは、それだけ身近だから
私が考える、日本人と鹿との関係は次の4つにまとめられます。
- 獲る、獲られる関係
- 文学的な題材
- 害獣
- 宗教的な信仰対象
宗教的には神である鹿は、一方では害獣や栄養源としての狩猟対象でした。
例えば奈良公園を出てしまえば、その鹿は神の使いではなく狩猟対象となります。
このように、日本人は鹿に対して、一見矛盾しているような様々な捉え方をしてきたのです。
私はそれだけ、人々にとって鹿という存在が身近であったのではないかと考えています。
この記事を読んで、鹿について少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
- 『万葉集』には68首の鹿の歌が詠まれている。
- 鹿の歌の多くは恋人への思いを表したもの。
- たまに狩猟対象としての歌もあった。
- 彫刻や絵画には神鹿(しんろく)として鹿が描かれることが多かった。