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ジビエライターコラム

都会育ちの女子大生が鹿を獲るまで Epi.1

ーこれは、あかりんご(@akaringo252588)という1人の女子大生が、1匹の鹿を獲るまでの物語であるー

前回までのあらすじ

農家さんに聞いた話に衝撃を受けた私は、狩猟をしてみたいという夢を胸に抱く。自分の手で鹿を1頭獲ると決めた私は、それまでに達成するべきロードマップを完成させた。やってやるぞと熱い情熱を抱くあかりんごが選んだ第一歩は、あるイベントに参加することだったのだが…

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狩猟をするためのロードマップは作ったものの、何をどうすればいいんだ…

当時は猟師さんとの繋がりも皆無だったので、私は狩猟をしてみたいという夢はあるものの何も動けずにいました。

そんな時、農業サークルのグループラインに一件の通知が舞い込んできたのです。

そこには1日狩猟体験というイベントの情報が書いてありました。

それは非公開のイベントで、農業サークル内だけの募集でした。

脊髄反射のごとく動く右手に自分でも驚きましたが、私は申込フォームを送信し、その狩猟イベントに参加することにしたのです。

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12月の冷たい空気を吸い込んだ鼻がジーンと痛みます。

私は集合場所でポケットに手を突っ込んで寒さに耐え、迎えの車を待っていました。

参加者は先輩たちと私と同期の5人。

ちょうど良い人数やな、などと世間話をしていると迎えの車が来ます。

少し緊張して力が入る背中。

運転していた猟師さんは、面識のある先輩と仲良さそうに挨拶を交わしました。

猟師さんはいわゆる猟師さん!という風貌で、体がゴツく少し怖そう…とも思いましたが、話してみると気さくな方でした。

「怖い見た目の人、話してみると絶対に良い人説」
の証拠をまた一つゲットした私は、車に乗り込み、次なる場所へ行きました。

私は集合時間だけ確認して1日のスケジュールは気にも留めないタイプなので、自分が今どこへ向かっているのかはわかりません。

そのドキドキ感が好きで、あえてスケジュールを見ていないと言ってもいいでしょう。

最初に着いたのは、山の目の前。

都会生まれ都会育ちの私は、そんな山際に来ただけで何だか高揚しました。

しばらく歩いていると、何やらフェンスが見えてきます。

「これは鹿柵と言って、鹿が里に降りてこないようにする柵なんですよ。」

猟師さんは私たちに向かって説明してくれました。

説明を聞いていた私は、フェンスの一部が壊れていることに気付きます。

それを指摘すると、猟師さんは丁寧に答えてくれました。

「動物が壊したのか、岩か何かが当たって壊れたのかは分からへんけど、こういう所から動物が出てきてしまうねん。」

大変だ、直さないといけないじゃないか。

そう思っていると、私の心を察したように猟師さんは言います。

「ただ直そうにも重機が必要やったり、人手が必要やったりでなかなかね…」

ほほ〜と思いながら『鹿柵 壊れてる 直すのも大変』と素早くメモをします。

「鹿柵があっても、鹿は2mくらいの跳躍力があるから実はこの柵も飛び越えられるんだけどね。」

確かに山の急斜面を使えば、簡単に飛び越えられそうです。

私は山を駆けて助走をつけ、ワッ!と力を込めて飛ぶ鹿の姿を想像しました。

ヒューンと北風が吹き付け私の腕の間を抜けていった時、私は皆が次のスポットに向かっていることに気付きました。

慌てて追いかけると、私はふと何かの足跡を見つけます。

指を指して尋ねると、猟師さんはその足跡を一瞬見ただけで答えました。

「あ〜鹿やね。」

何のどこを見て判断したの!?と驚いた私ですが、やっぱり鹿は降りてくるんだと心に何かがストンと落ちたようでした。

おそらく足跡の持ち主である鹿が通った道を辿りながら、次のスポットに着きました。

そこでは別の猟師さんが何やら準備をしていて、その周りに参加者が集まっています。

先ほどの場所で思いを馳せていた私は出遅れてしまい、そこでは既にすごい!とかへぇ〜!と言う声が飛び交っていました。

背が低い私は、皆が作る輪の中心にあるものを見ようと背伸びをしました。

垣間見えたのは、丸い筒のようなもの。

ワイヤーがかけられており、何やら猟師さんはこれをくくり罠と呼んでいます。

「鹿が来てちょうどここに足を掛けたら…」

と言いながら猟師さんは足をその筒の上に持っていき、グッと踏み込みました。

するとバチン!という音とともにワイヤーが外れて猟師さんの足に食い込みます。

「痛ぁぁあああいい!」

猟師さんが叫んだので私はビックリして大丈夫ですか!?と駆け寄りましたが、それは猟師さんお得意の冗談でした。

少しドキドキしたまま、私は胸をなで下ろしました。

これがくくり罠か…とまじまじ見ていると、猟師さんが近付いて来ました。

「やってみいや、教えたるから」

私は筒とワイヤーを手渡され、実際に罠を作ってみることに。

原理は簡単ですがやってみるとワイヤーの締め方などにコツが必要で、手取り足取り、最終的にはほとんど猟師さんに任せてしまうという結果に。

その罠に足を掛けてみることになり、私は恐る恐る罠を踏み込みました。

バチン!

「うわ!!!」

ビビリな私は急な衝撃に驚いて声を出してしまいましたが、靴を履いているので痛みは全くありません。

「鹿とかイノシシやったら掛かった瞬間に暴れるから、ワイヤーがきつく締まって捕まえられるんや」

猟師さんは左手で半円を作り、右手で動物の足を表現して、動物が罠にかかる様子を身振り手振りで説明してくれました。

「難しいのは罠かける位置や。肉の多い後ろ足に掛からんように、動物が歩く姿を想像して罠を埋めるんや」

猟師さんはそれが動物との心理戦のようで楽しいのだと言います。

私は山に目線を移し、行く手を警戒しながら進む鹿を想像しました。

ぬき足さし足しのび足…と言わんばかりに歩く鹿は目の前に少し足場の悪い道を発見しますが、いつも通っているその道を通ることにします。

石とか枝は踏みたくないなぁ…と唯一空いていた地面に足を踏み込んだ時、ワイヤーが作動して足を取られました。

動き回るほど締め付けられるワイヤー。

鹿がワイヤーから逃れようと暴れるたび、罠を括り付けておいた木がユッサユッサと揺れています。

「皆!こっち来て〜!」

猟師さんの呼び掛けでハッと我に返った私は、急いで振り返り林の中の開けたところに行きました。

歩きながら『くくり罠 私でもできそう 設置場所 難』と乱れた字でメモします。

猟師さんのところへ行くと、そこでは何やら白い粉が撒かれています。

その周りには木が並べられており、入り口となる場所だけ隙間が空いていました。

「これはくくり罠を実際に設置したやつで、何回か餌を撒いた後、罠をかけるんや」

落ち葉と同化してよく見えませんでしたが、注意して見ると木が途切れている入り口のところにワイヤーの罠が掛けられています。

何回か餌を撒いて大丈夫だと思わせ、ちょうど良い頃合いで罠をかけるのか。

まさに野生動物との心理戦だなと、くくり罠の醍醐味を感じた瞬間でした。

一度罠を知った動物はもう来なくなるので、失敗は許されないそうです。

『心理戦 = だいごみ』とメモしながら、私は内心で希望に満ち溢れていました。

これなら私にもできる!

そう思ったからです。

「よしゃ!次の場所行こうか!」

今度は遅れることなく、私は車に乗り込むのでした。

ーまだ、鹿は獲れていないー

ABOUT ME
あかりんご
鹿肉専門のキッチンカーSHIKASHIKA店長。神戸大学で畜産を学び牛飼いを志すも「日本で持続可能な肉とは?」という問いをきっかけに、鹿肉と出会う。鹿肉を日本の肉文化に、をビジョンに掲げ、美味しい鹿肉料理を日々提供していたが、より美味しい鹿肉を求めて現在は北海道で鹿を捌いている。