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ジビエライターコラム

都会育ちの女子大生が鹿を獲るまで Epi.7

ーこれは、あかりんご(@akaringo252588)という1人の女子大生が、1匹の鹿を獲るまでの物語であるー

前回までのあらすじ

まるまるしぇで発電機が故障したことにより鹿カツを販売できず、惨敗したあかりんご。だが、若い人になら鹿肉を食べてもらえるのではないかと学祭への出店を決意した。しかし反対意見は意外なところから出てきて…

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「何とかなると思ってるんやったら考え直し。」

私はスマホを見たまま、ギュ〜と心臓がゆっくり締め付けられる感覚を感じました。

________1時間前________

「今年の学祭、狩猟Pがプロジェクトベースで学祭に出店してもいいですか?」

私が幹部にそのLINEを送ったのは、学祭の出店受付締め切り前日の夜でした。

実は狩猟Pは農業サークルのプロジェクトとして活動しており、何をするにしても農業サークルの承認が必要なのです。

私は、学祭へのジビエ出店は史上初なのではないかとウキウキしていました。

これは絶対にバカ売れするし、大学の学祭で名物になったらどうしよう…などとお得意の妄想がモクモクと湧き上がっていたのです。

逆に農業サークルの名が有名になり感謝されるのではないかとも思い奢り昂っていた私。

しかしそんな浮かれ気分は、一瞬で消え去りました。

「出店するのはいいけど、採算は取れるの?」

やはりサークルとしてお金の問題はシビアで、学祭の出店費は安いものではなかったのです。

もし全然売れなくて赤字になれば、誰が補填するのかということは当然議論になります。

「出店したことがないので分かりませんが、売ります。赤字になれば私が自腹切ります。」

これで解決かと思いきや、幹部からは不安の声が上がりました。

「そんな思いつきみたいな案、信じられる?」

「鹿肉って衛生とか大丈夫なの?学祭の衛生チェック厳しいんだよね?」

お金の問題は解決したと思っていましたが、次は鹿肉の衛生の話が始まりました。

普通の食材でも厳しい衛生チェックがあるのに、鹿肉なんて大丈夫なのかと言われてしまったのです。

あかりんご

鹿肉を出店したことないのに何でそんなことが言えるんだ…。

私は自分の意見が否定されたような気がして、落ち込んでしまいました。

しかし何より悲しかったのが、鹿肉というだけで危険という一般論を身に染みて感じたことでした。

野生動物の肉というだけで敬遠されてしまう鹿肉。

あかりんご

衛生大国、日本…。

私の頭の中では、いつかテレビでやっていたドキュメンタリーの冒頭部分が流れていました。

ですが幹部を説得しない限り出店はできません。

そんなことを考えていると、また新しいメッセージが音と振動を伴いやって来ました。

「何とかなると思ってるんやったら考え直し。」

私はスマホを見たまま、その無機質な文字をしばらく眺めていました。

ギュ〜ッと心臓がゆっくり、ゆっくり締め付けられます。

何も返事をすることができず、私はスマホをそっとスマホの電源を切りました。

私は悔しさと悲しさと、絶対成功させてやるという意地を抱えてその日は眠りにつきました。

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ABOUT ME
あかりんご
鹿肉専門のキッチンカーSHIKASHIKA店長。神戸大学で畜産を学び牛飼いを志すも「日本で持続可能な肉とは?」という問いをきっかけに、鹿肉と出会う。鹿肉を日本の肉文化に、をビジョンに掲げ、美味しい鹿肉料理を日々提供していたが、より美味しい鹿肉を求めて現在は北海道で鹿を捌いている。