ジビエをもっと、あなたらしく。
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ジビエライターコラム

都会育ちの女子大生が鹿を獲るまで Epi.12

ーこれは、あかりんご(@akaringo252588)という1人の女子大生が、1匹の鹿を獲るまでの物語であるー

前回までのあらすじ

神戸ハーバーランドmosaicにてイベントの計画を進めていたあかりんご。ようやくイベントに出店してくれる店舗を見つけるが…

12-1

私と狩猟Pのメンバーは、指定された時間と場所に30分も前に着いてしまい、神戸三宮の街をブラブラ歩いていました。

朝の三宮は少しひんやりしていて、私は冷えた手をギュッと握りしめました。

「緊張しますね…」

「緊張するな…」

私は昨晩まで作り込んだ資料と説明を上手くしなければならないということで頭がいっぱいで、後輩の話をオウム返しすることしかできません。

そして約束の時間が来て、私たちは指定されていたお店へ行きました。

自己紹介を終えた私たちは、早速説明に入りました。

「今回、神戸ハーバーランドでイベントをやることになりました。

神戸三宮周辺のジビエ料理店を集めてマルシェのような形態でやろうと思っています。

もしご都合が合えば、参加していただけませんか?」

「ほう…この資料をいただいて、社内で検討しても大丈夫でしょうか?」

「はい!!」

「ところで、大学生やんな?

どういった活動をしてるのか、もう少し聞かせてや!」

「私たちは農業サークルの一つのプロジェクトで、ジビエを学生に食べてもらったり、マルシェに出店したりしているんです!」

「へぇ〜いいな!若いな!

実は自分たちも捨てられている鹿をもっと美味しく活用したいという思いでやっているんよ。」

お店の方との会話はとても楽しく、気付けばお店の開店時間になっていました。

やや急いで店を出た私たちは、駅に向かって歩き出します。

お店を離れてしばらくした後、後輩と顔を見合わせた私は緊張からの開放で叫びたい気分でした。

「やっったー!!!!」

叫んだのは後輩の方で、それを見て私は嬉しくなるのでした。

12-2

「今回のイベントの件ですが、是非出店させて頂ければと思います…。」

出店交渉をしたお店から参加するという知らせが返ってきたのは、それから数日が経ってからでした。

文面を読み上げ、狩猟Pメンバーの顔を見ると、ぽかんと口を開けています。

「出店交渉、成功したー!!!」

私が言葉に出すと、やっと状況が掴めたようでメンバーの顔は驚きと喜びと戸惑いで笑顔になりました。

イベントの出店は少し先の秋を予定していました。

それまでに、私たちはマルシェに向けた準備をしなければなりません。

そこで私は、マルシェまでにしなければいけないことを考え始めました。

あかりんご

結局、世の中は人モノ金…。

「りんごさん、急にどうしたんですか?」

「あっ、いや。

マルシェ開催までにしなあかんことを考える時に、この3つの軸で考えようと思ってんねん。」

「あぁ、なるほど。

マルシェに追い込まれすぎて病んでるんかと思いました。」

私たちはワハハと笑い、マルシェまでにしなければならないことを考えていきました。

  • 当日の人員配置・段取り
  • 準備期間の仕事分担

モノ

  • マルシェのテント配置
  • 備品チェック
  • 狩猟Pの出店

  • 予算

ザックリとやることが分かった私たちは、もう少し具体的にやるべきことを落とし込んだ後、準備に取り掛かったのでした。

一番頭を悩ませたのは、お金でした。

学生気分で何とかなると思っていたのか、私がお金について試算をし始めたのは何とイベントを行う1ヶ月前ほど。

普通、お金の話は一番最初に行うのが普通だと、イベント運営会社の代表に怒られて初めて知ったのでした。

頭を下げて謝りながらも、自分が扱ったことのない額のお金を動かしている感覚に、静かな興奮を感じていました。

(ジビエでお金が回っている!)

なぜか私はそのことが、とても嬉しかったのでした。

12-3

「イベントをするなら、催し物をするぞ!」

私はいつもの思いつきで、そんなことを提案しました。

せっかく大学にはジャグリングやマジック、無数の音楽サークル、ダンスサークル…いろんな団体があるのだから、コラボして出てもらえばいい。

私はそう思い至ったのです。

そして神戸ハーバーランドには子供連れも多いから、子供用のスペースも準備してはどうか?とも思い付きました。



今思えば、膨大な仕事の上にさらに仕事を重ねるような、無謀な提案だったと思います。

ですが当時は1+1が2になるように、それしかないと私は考えていたのでしょう。


そこで私は同級生や狩猟Pメンバーのツテを辿り、様々なサークルに声をかけました。

参加してもらえることになったのは、爽やかな音色の楽器を使ってアコースティックな音楽を奏でるサークルのバンド。

そして器用に道具を使って技を決める、ジャグリングサークルが参加してくれることになったのです。

一方の子供スペースは、鹿の毛皮や鹿の角を展示して触ってもらえるスペースを作ることにしました。

幼児用のおもちゃを借りてきて、それを組み合わせて鹿の角を作ったり、というようなブースを作りました。

また、子供が楽しめるワークショップスペースを作るために万力とやすりを購入しました。

これは鹿の角を削ってストラップにするという体験ができるワークショップスペースで、ワークショップの開催に向けてリハーサルも入念に行いました。

夢中で準備しているうちに季節はどんどん過ぎていきます。

寒かったのが暖かくなり、暑くなり、そしてまた肌寒くなりました。

私たちは、イベント会場に集合して最後のリハーサルをしていました。

「朝に車がここ停まるので、こっから台車を使って搬入してもらって…」

私は書き込みで真っ黒くなった地図を見ながら狩猟Pのメンバーに当日の流れを入念に説明しました。

皆の顔は意外にも笑顔で、緊張はしていないようでした。

「ほんなら、明日はよろしくお願いします!

…では、お手を拝借。」

数を重ねるうちに、ミーティングの終わりには一本締めをする決まりができていた狩猟P。

「よ〜…」

パン!!!

少し肌寒い秋の澄んだ夜空に、手の鳴る音が吸い込まれていくのでした。

「よし、明日だ。」

私は夜空を見ながら、フッと息を吐いたのでした。

ーまだ、鹿は獲れていないー

ABOUT ME
あかりんご
鹿肉専門のキッチンカーSHIKASHIKA店長。神戸大学で畜産を学び牛飼いを志すも「日本で持続可能な肉とは?」という問いをきっかけに、鹿肉と出会う。鹿肉を日本の肉文化に、をビジョンに掲げ、美味しい鹿肉料理を日々提供していたが、より美味しい鹿肉を求めて現在は北海道で鹿を捌いている。