ーこれは、あかりんご(@akaringo252588)という1人の女子大生が、1匹の鹿を獲るまでの物語であるー
初めて罠をかけるという体験をしたあかりんごは、今まで食べていた鹿肉がどのようにできていたのかを知る。そしてイベントの企画に向けて、動き出したあかりんごだったが…。
11-1
私の心臓はバクバクしながら、ある人を待っていました。
それは、神戸ハーバーランドmosaicでイベントを行っている会社の代表でした。
待ち合わせ場所で待っていた私は、頭の中でアドレナリンが駆け巡る、スーッとした感覚を感じながらもそんな自分を冷静に見ていました。
私が握りしめていた資料は、汗で少しへなっています。
「大丈夫、ダメならダメで、その時やし。」
自分に言い聞かせている間に、代表がそこへやって来ました。
あっ、初めまッ、あの、あかりんごです!
焦ってぐちゃぐちゃになってしまった挨拶には触れず、代表は私をカフェに案内します。
そして代表は淡々と話し始めます。
「どうも。えーっと…大学生のあかりんごさんですね。
イベントの話をする前に、あかりんごさんの団体について教えていただけますか?」
私は握りしめていたシワシワの資料を伸ばして、何度も練習した説明の通りに話しました。
ヘェ〜、フゥン…と言いながら、代表は聞いています。
「わかりました。それではイベントの説明をしたいと思います。」
代表は立ち上がり、私は代表に続いてカフェを出ました。
mosaicの中を周り、私は代表にどこでイベントをすることができるのかを聞きました。
「この台車を使って移動販売のようなものもできるし…ここの広場も使えるし…この建物の中もカフェとして使おうと思えば使えます。」
イベントの企画など経験のない私はどれもに良いですね!と答えることしかできませんでした。
そして代表と話すうち、とりあえず神戸周辺のレストランを集めるのはどうかとイメージが膨らむ私。
レストランを集めるなら、マルシェということになるかな?
ですがマルシェを行うにも、何をしていいか分かりません。
どうやってお店を集めるのか?まずマルシェのコンセプトは?保健所の許可などはいるのか?火器を使う場合は申請は?
これからやらねばならないことが、どんどんと押し迫ってくる感じがして、私はフリーズしてしまいました。
「…それでは、また後日状況をお知らせください。では。」
我に返った私はサッと体勢を正して、丁寧にお辞儀をしました。
代表が去った後、フゥと息をついた私はもう一度神戸ハーバーランドの中を歩き回ることにしました。
『子供連れ 多 11時以降 多』
私はとりあえず現場の状況で気についたことをメモに書いていきました。
マルシェに出店する時や料理を作る時など、物事を道筋立てて考えるのは得意な方でしたが、マルシェの主催は本当に何をしていのかイメージが湧きません。
これ、やばいやつやん…
私は1人でつぶやきました。
しかしその言葉の反面、心臓はドクンドクンと脈打ち、楽しそう!という感情が私の口角を引き上げたのでした。
11-2
「…ということやねん。」
私は神戸ハーバーランドで代表と会った時に教えてもらったことを、狩猟Pのメンバーに共有しました。
「神戸ハーバーランド!?あのディズニーランドと肩を並べる観光施設!?」
「それは言い過ぎや、大阪の通天閣くらいやろ」
「いや、東大寺やな」
「それはどうでもいいから、何するよ!イベント!」
シーーーン。
メンバーの表情を見ていると、規模が大きすぎて何を考えたらいいのか分からないと顔に書いてありました。
今私たちには無限の可能性があって、その一歩を踏み出さないことには何も始まらないのです。
ただ、その一歩を選ぶべきだという確証は持てるはずもなく、いつまでもアワアワとその場で立ち止まっているのが今の私たちでした。
「とりあえず、このイベントを開催する目的。
これを決めたらええんとちゃいますか、りんごさん?」
「うむ、ほんなら目的を決めよう!」
一般的にはまず始めに目的を設定し、それがどのような形で達成されたら成功なのかというゴールを決めます。
そしてそれに至るまでの手段を決定していくのが常識です。
ですが当時は目的やゴール、手段といった考え方を持っていなかった私は目的の前に手段を考えたり、ゴールは決めなかったり…今思えばもったいないと思いますね。
「やっぱり不特定多数の人が来るから、ジビエをより多くの人に知ってもらうのがいいんじゃないかな?」
「確かに。初めてジビエのこと知りますっていう人をターゲットに、企画するのもいいですね。」
そうしてどんどんイメージが固まっていきました。
それは神戸周辺のジビエレストランを集めて、マルシェを行い催し物も開催するというものでした。
「そうなると、まずはレストランに電話をして出店してもらえるか確認する作業やね」
そこで私たちは、神戸のジビエレストランに電話をかけることにしたのです。
11-3
プルプルプルプル…
そんな高らかな可愛らしい音が鳴っているのに、私にはそれがとても重苦しく聞こえました。
あぁ早く出てくれ、いや、もう出ないでくれ…。
気弱な私はレストランに電話一つかけるだけでもガチガチに緊張してしまい、心臓がうるさいくらいに暴れています。
ガチャ、という音とともに店員さんの声が聞こえます。
私は慌てて手元にあるメモに目を移し、読み始めました。
「あっ、こんにちは。大学生のあかりんごと申します。
この度、神戸ハーバーランドmosaicにてジビエをもっと身近に感じてもらうためのマルシェを…」
「あ、うちマルシェとかいう雰囲気ではないので。では。」
ツーッ、ツーッ、ツーッ。
秒殺とはこのことだと思いながら電話が終わった音を聞いていた私。
あぁ、社会は甘くないんだなぁ…。
しかし、へこたれてはいられません。
次!次!と気持ちを切り替えて電話をし続けました。
「こんにちは。大学生のあかりんごと申します。」
「うちは間に合っていますので…。」
ツーッ、ツーッ、ツーッ。
よし次!!
「こんにちは。大学生のあかりんごと申します。」
………………………………………………
そしてやっと一件だけ、店舗にて詳しいお話を頂けますか?という返事をいただいた私。
「っっしゃ!!」
人目も気にせずガッツポーズをした私は、早速その日のために資料作成を始めたのでした。
ーまだ、鹿は獲れていないー