「イノシシって獣くさそう……」
「一回食べたけど、くさくて合わなかった」
イノシシの肉をイメージするとき、おいしい!とハマる人がいる一方で、
ネガティブなイメージを持つ人もいます。
同じイノシシ肉を食べても味に差があり、そのせいで、印象が変わってしまうのです。
今回はその理由を解説していきます。
イノシシ肉がけものくさかった!その理由
イノシシ肉においしい肉とくさい肉があるのは、事実です。
それには大きな2つの理由があります。
まず、野生のイノシシには個体によって差があること。
そして、解体する猟師の下処理の差があるからです。
この2つの条件が肉の味の差になる大きなポイントとなっています。
野生のイノシシだから味にムラが出てくる

一般的に売られている豚や鳥、牛の肉は、特別なブランドのついた肉以外、飼育環境が似かよっていて、
食べるものや運動量の差はそこまで大きくありません。
しかし、野生のイノシシの場合、
- 産まれた土地の条件(自生する植物の種類や量)
- 年間を通した天候による餌となる作物のとれだか
- 妊娠出産の回数
- 発情期である
- 病気を持っている
など、人間がコントロールし得ない各々の状況下で育ちます。
さらに仕留められるタイミングも予測できないので、ばらつきがあって当然なのです。
https://gibier.site/2019/10/11/inoshishiumai/猟師の処理の仕方で肉の味が変わってしまう
イノシシの肉は、エリアによってイノシシの皮と脂肪と赤身を一緒に食べるところと、皮をはいで脂肪と赤身を食べるところがあります。
たとえば、京都は毛と一緒に皮をはぎますが、高知はたいてい皮をはがず毛を抜き、皮を残したまま精肉します。
(食肉加工場で処理された場合は、皮は基本はぐのがスタンダードです。)
皮をはがない場合、肉の印象値を変えるのは毛の処理をどこまでできるかです。
つまり、肉の質は、解体する猟師の性格によって変わる部分が出てきます。
毛だけではなく、肉の味に直結する部分では、糞尿器官や内臓のにおいなどが肉につかないように気をつけてさばいているかどうかも大事なポイントです。
内臓処理の失敗した肉は食べる人に不快感を与えるくさい肉になってしまいます。
細かい部分では、猟師のさばき方だけでなく、仕留めた後の血抜きや、内臓をとってすぐ身体を冷やせるかどうかなども肉の味に影響してきます。
猟師も食べようと思ってさばくので基本的にはきちんと処理されていることは多いのですが、流通している肉ほどの均一的なクオリティには達しないのも仕方ありません。
イノシシの臭みについて、「ぼくは猟師になった(新潮文庫)」の千松さんの著書のいち部も併せてご紹介します。
ただのイメージではなく、実際に食べてくさかったという経験をしている人も多いです。その原因は想像することしかできませんが、処理に問題があったのでしょう。田舎ではよくあることですが、交通事故で死んだイノシシや防犯ネットに絡まって死んだイノシシなどをきっちりとした処理もしないで食べた結果、そういう感想に至ったのかもしれません。
また、牡丹鍋店が濃い味付けを売り出していることにもそのイメージが広がった原因があると思います。(中略)
(飼育されたイノシシについて)餌は家畜用の配合飼料でしょう。どんぐりなどを食べている野生のイノシシとは全然違う味になるのは間違いありません。運動量も野生と比べて格段に少ないので、肉のしまりも違ってきます。(中略)
同じイノシシでもここまで味が違ってくるのかとびっくりしました。猟師の間ではどんぐりをたくさん食べているイノシシはほどよい脂がのっておいしいといわれています。(千松 2008:118)
ぼくは猟師になった (新潮文庫) [ 千松信也 ]
このように、おいしくないイノシシ肉に当たってしまうのは、運が悪かったともいえます。
しかし、近年では獣肉加工場の整備が進み、そういった味のムラや、野生の鳥獣の肉のリスクを減らすための工夫や整備が整ってきました。
おいしいイノシシ肉が増えた理由
そもそも、ジビエ肉(狩猟で得た獲物の肉)は人類の歴史と同じぐらい長く世の中に存在するものです。

昨今、改めてジビエに注目が集まったのには、狩猟対象鳥獣が増えすぎたことによる、獣害被害の拡大、生態系のバランスが崩れたことにあります。
そのため国をあげて、様々な施策を講じ、ただ数を減らすだけじゃなく、獲った獲物を価値として利用するために、ジビエという考え方を定着させていきました。
最近では、少し洒落たイタリアンやフレンチでもメインにジビエを利用していたり、ジビエを専門とする店舗も増えています。
オシャレで味わい深く、ちょっとレア感のあるジビエが食べられる機会が増え、「おいしい」「ハマった」という人の声もききます。
実は、この10年近くで、ジビエをとりまく環境が大きく変わってきました。
全国で536施設のジビエ処理加工施設がつくられた

猟師が扱う肉のリスクを減らすため、肉の質のばらつきを改善して流通をすむーずにするため、ジビエ処理加工施設が全国各地に作られています。
また、平成26年11月に厚生労働省医薬食品局食品安全部長から野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)がでました。
飲食店がジビエを仕入れるには、「食肉処理業」と「食肉販売業」の許可を得た専門業者から仕入れることが必要になっています。
猟師はとったシカやイノシシを持込み、加工場に売ることができるようになりました。
(中には生体搬送でより鮮度の良い状態を保ったまま処理できることを売りにする施設も)
よりよい肉のために、自治体によっては猟師への手順マニュアルができているところもあるそうです。
ジビエを扱う店が増えて調理法も広がった
国がジビエの加工、販売ルールを明確にしたことにより、店舗流通もしやすくなり、ジビエを扱うお店や、専門店が増えてきました。
独特の味をもつジビエを楽しむレシピや加工方法も増え、イノシシやシカを以前よりもおいしくたべられる環境が整った今、
ジビエを一層おいしく食べられるようになったのです。
【まとめ】イノシシ肉のおいしい食べ方は増えている
ずっと猟師である父が自分でさばいたイノシシを食べてきた我が家にも、最近イノシシ肉の新しい食べ方が加わりました。
獲れた肉を送り、添加物を入れずにハーブをまぜて羊の腸に肉を詰めたウインナーにしてもらうよう、食肉加工業者にお願いして作ってもらっています。
現在、ジビエ処理加工施設は赤字経営の施設も多くあるようです。
しかし、きちんとした処理場や加工場ができたことで、おいしいジビエに出会える可能性や、食べてもらえる機会が広がりました。
ジビエがもっと身近になり、たくさんたべられるようになることで、鳥獣被害が減り、ジビエを用いた地域活性化に繋っていくと最高ですね。
”ジビエは臭い”
という当たり前が大きく変わり、畜産業界に並び、ジビエ産業が拡大していくこともそう遠い未来じゃないかもしれません。