ーこれは、あかりんご(@akaringo252588)という1人の女子大生が、1匹の鹿を獲るまでの物語であるー
まるまるしぇというマルシェに出店することになったあかりんご。しかし、当日にあるアクシデントが起きて…
6-1
「りんごさん、あの…」
狩猟Pのメンバーが私に近付いてきます。
「発電機が、どう頑張っても動かへんのです。」
実はそのマルシェが行われていた場所は火器を使用することができず、調理をするには発電機でIHコンロを使う必要があったのです。
その発電機を知人から借りていたのですが、その発電機が動かないそうです。
私は知人に教えてもらった手順で発電機を作動させます。
ギュルギュルギュル ギュルギュルギュル ………
動きません。
何度同じことを繰り返しても、発電機は動きませんでした。
時刻はもうマルシェが始まる時間になっており、マルシェ会場にはポツリポツリとお客さんが入ってきていました。
私は焦っていました。
原因不明の故障に、何をどうすればいいのかが分からなかったのです。
近くのホームセンターで発電機を買う?
ガスコンロを買ってくる?
レストランかどこか、発電機貸してくれないかな?
…それか、諦める?
発電機の故障の原因を探るフリをして、私の頭の中では会議が行われています。
とりあえず私は、リーダーとして皆を暗い気持ちにだけはさせてはいけない。
狩猟Pのメンバーは少し落ち込んだ様子で、待っていました。
私は泣きたい気持ちを抑えて、言いました。
「発電機がご機嫌ナナメやから、もう少し待って欲しい!鹿を食べてもらうことはできなくても、知ってもらうことはできるから、店の前で宣伝しよう!」
私は狩猟Pの活動や、鹿関係の情報をまとめて作ったパンフレットを手にして笑いました。
斜め下を向いていた皆の視線が私に集まり、そして彼らの表情は納得に変わりました。
「そうやな、落ち込んでても何も変わらないっすもんね」
そうして、パンフレットを手に取った狩猟Pのメンバーは店前に立って、興味を持ってくれたお客さんに説明を始めたのでした。
その後も、どれだけ頑張っても発電機が動くことはありませんでした。
6-2
16時、朝と同じように全体のミーティングがありました。
円になって、これからの片付けの案内がされています。
私は朝立っていたポジションより少し後ろに立って、皆の晴々しい笑顔を横目で見ながら自分は今上手く笑えているだろうかと思っていました。
隣の店舗は完売、その隣の店舗も商品はごくわずかになっており遠慮の塊のような野菜たちが並んでいます。
結局、発電機は動かず。
その日の売り上げは0円でした。
せめて鹿肉を無駄にしないようにと、鹿カツを下宿生の家で揚げて狩猟Pのメンバーや他のマルシェ出店者にお裾分けしました。
「意外と臭くないんやね、柔らかいし」
「これ鹿なん!美味しいわ!」
そう言ってもらえたことが心の支えでした。
いつの間にか全体ミーティングは最後に一本締めをするということで、皆が手のひらを夕方の曇った空に向けています。
「よ〜っ…」
パンツという軽々しい音に、私の鈍く力のない拍手が混じって消えて行きました。
私は狩猟Pの後輩に尋ねました。
「パンフレットの説明とか、どうやった?」
その後輩はそれを聞かれて浮かない顔で答えます。
「反応…悪かったです。」
後輩の話では、このまるまるしぇに来るお客さんは高齢層が多かったと言います。
高齢層の方は特に鹿肉=臭い、硬いというイメージが強かったそうです。
鹿という言葉を出しただけで振り払うように逃げていく方や、とんでもないという表情で見るお客さんもいたといいます。
後輩はそれがショックなようでした。
「でも、高齢の方は鹿肉に対する偏見が強いっていうことが分かって良かったやん!」
「はい…。」
後輩は下を向いたままで、それきり黙ってしまいました。
6-3
私は焦っていました。
打ち上げには参加せず、私はパンパンに備品が詰まったキャリーケースを引きながら足を擦るように歩いていました。
私は焦っていました。
狩猟Pのメンバーで用意したことが、発電機の不調によってパーになってしまい、メンバーの気持ちが離れていってしまうのではないかと思っていたのです。
「今日までのことは全て無駄だったのか?」
私は自分に問いかけると何だか虚しくなってしまいました。
「今回の出店は失敗だったのか?」
もう一度自分に問いかけると、そうではないような気がしました。
長い時間をかけて着いた駅から電車に乗り込みました。
電車の中の人はまばらで、私は一番端の席に座ります。
ガタンゴトンと揺られながら、私は今回の出店で学んだことを書き留めました。
- 発電機は2度と使わない
- あらゆるリスクを予測
- プランBを考えておく
- 高齢層 鹿肉 偏見
- 若い層 鹿肉 人気
「あれ、思ったより収穫大きいやん
これだけ分かったら、いいじゃないか。」
私はそうやって自分に言い聞かせ、これからは若い層にターゲットを絞っていった方が良さそうだなと、私は思います。
若い層…若い層…。
私は疲れた頭でボーッと考えていましたが、ふとあることを思い付きました。
「学祭…!!!」
私は1人でこうつぶやき、窓に映る自分にニヤリと笑いかけました。
ーまだ、鹿は獲れていないー