どうも、
ジビエーるで編集長をつとめています。矢野です。
先日、このような記事を目にしました。
東京・足立区の荒川河川敷で3日、シカが捕獲された。(中略)
シカは警官ら約10人がかりで押さえられ、激しく暴れる様子はなかったが、時折鳴き声を上げていた。警官らからは「ごめんな。もう少しだからな」とシカに呼び掛ける声もあった。報道陣らでごった返す中、シカは迎えに来た足立区のトラックに乗せられ、パトカーの先導で搬送されていった。周辺には、シカ捕獲の瞬間をしかと見届けようと、報道陣や見学者など200人以上が詰めかけた。(中略)
東京では5月31日、板橋区内でもシカの目撃情報が相次いでいた。
シカ捕獲!東京・足立区の荒川河川敷にギャラリー200人超:https://hochi.news/articles/20200603-OHT1T50054.html
とまあ、近年野生鳥獣が都市地域に出没するという話は、増えていて、その理由は本当に複雑に絡み合った問題が潜んでいます。
ざっとリストアップしてみると、
- 里山の劣化(管理されなくなったことで山と里の境目がなくなっている)
- エサ資源の枯渇(間伐されない植林山が増え、土に日が当たらず草が生えづらい)
- 鹿の個体数の圧倒的増加(ここ5年で10倍に増えるとも。)
- 天敵がいない(ニホンオオカミの絶滅)
- 地球温暖化
それぞれの問題が大きすぎるため、色々な意見が錯綜しがちなテーマになるのですが、問題の本質は根深いものになることをご理解いただけましたでしょうか?(シカによる農林水産被害とか言い出すとキリがない)
そして、今回の騒動を
『コロナで自粛して人の賑わいが少なくなったから』
とおっしゃっている方もおられましたが、
それは間違いではないと思いますが、長期的に見て間違いでしょう。
このままいくと数十年後には、おそらく都市地域の河川敷にシカ出没なんて当たり前のことになるだろうということです。(理由は後記)
可愛いから保護するという怖さ
そもそも、この問題をとりあげようと思った理由のひとつには、上記のニュースが出た後に、追加で下記のようなニュースが流れたことでした。
区には4日に電話やメールで「(個人で)シカを引き取りたい」などの問い合わせが約100件寄せられた。この日はさらに「なぜ山に帰さないのか」などの意見が100件以上殺到。電話が鳴りっぱなしだという。(抜粋)
https://hochi.news/articles/20200605-OHT1T50185.html
ちょっとこの記事に大変びっくりしたのは、おそらく僕だけではないと思います。
日本の半分以上の人が地方に暮らし、車で山道を走っていたら、シカを見たなんて人はたくさんいると思うのですが、
その人たちの多くはこのニュースの異常さを感じたのではないでしょうか?
異常というのは言い過ぎでも、野生の動物でそもそも飼い方もわからない動物をただ、可愛そう・可愛いからと飼うと言っている人が100人もいることです。
なぜ、この人たちはシカを飼いたいと名乗り出たのでしょうか?
理由は様々であるでしょうが、最も大きな感情には
『かわいそう』、『かわいい』
のような感情があるのだと思います。
その感情を否定することはありませんが、日本の現状をみるとそれがどれだけ怖いことか、わかるのではないでしょうか?
こうした感情はとても大きな力になって、上記で示したような問題・課題を解決していくための道筋をぶち壊していくことに繋がります。
つまり、この感情で今回の問題を捉えてしまう人が大きな力を持てば、荒川河川敷には毎日のようにシカが目撃されるでしょう。
そして、河川敷にある芝生のグラウンドは全て土のグラウンドに戻り(シカが草を全部たべてしまう。)、家の近くにはフンをしまくり、それによって、あなたの大事なペットに感染症がうつるなど、、、
問題はさらに大きくなってしまいます。
その時はじめて、今回、可愛いから飼いたいと声を上げた人たちは手のひらを返して『危ないから駆除しろ!』と声を上げていうでしょう。
今回出現したのが、イノシシやクマなら?
正直、今回出たのがシカだったからいいですが、イノシシやクマであれば、命に関わります。
そのため、地域に暮らす猟友会などに声がかかるのですが、今回のように都市に近い地域では鉄砲を撃つことが法律で禁止されているため、麻酔銃などを使って捕獲し、山に還すか、駆除という扱いになるでしょう。
(野生鳥獣を保護する動物園などもあるので、そこにいくかも?)
まあ、その時は、『野生に離してあげて!』という声は出るでしょうが、さすがに、『飼いたい』なんて問い合わせはないでしょうね。
今回のテーマにも、少し関わってくるかなと思った動画があるので、こちらご覧になってください。
シカは日本全国で年間60万頭もの数が捕獲・駆除されている
出典:捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況
農林水産省 農村振興局 鳥獣対策・農村環境課 鳥獣対策室https://www.maff.go.jp/j/nousin/gibier/attach/pdf/suishin-139.pdf
こちらのデータを見てもらうとわかるように、日本におけるシカの捕獲頭数は年々増え、現在約年間60万頭が狩猟・有害駆除により捕獲されています。
こうした現状を知っている僕からすれば、たった一頭のシカのことについて考える前に、まずこの現状を知って、どう思うのかを聞きたいなと思うところです。
日本におけるシカとの付き合いの歴史は長く、飛鳥時代まで遡ってもシカと日本人との関係性についての文献があるほどです。
それほど、日本人とシカとの付き合いはとても長く、両者ともに良い付き合いをしていたことがわかります。
しかし、まあ言ってしまえば僕ら側のエゴにより、ある意味でシカにとって生きやすい環境が出来てしまったことにより、そのバランスが崩れつつあるのが現在の日本の現状なのです。
シカと日本人との関係性について知らなすぎる。
さて、長々と書いてきました(実際にはもっと伝えないといけないことも多いです)が、今回の問題の本質は、
多くの人が、シカと日本人との関係性について知らなさすぎること
にあると思っています。
シカと聞けば奈良公園でシカ煎餅を食べている可愛い動物と思っている人が多すぎるということです。(あそこは特別な環境であることを知って欲しい)
だから、可愛いから飼いたいみたいな思考になってしまうんだろうなと。
近年、様々な理由からその頭数が増えたこと、そして、衛生管理などの昔はなかったルールなどが徹底されてきたことから、今のジビエブームなどの流れに至っていますが、昔からシカは最高の食材であり、最高の素材であり、最高の友であったのです。
もう少し詳しく知りたい方は、こちらぜひ読んでみてください。
シカを日本の大事な資源と捉え。活用を考えよう!
まあ、今回の話で僕が言いたかったことの結論は、
シカを日本の大切な資源と捉えて、有効活用の仕方をみんなで考えようぜ!
ということです。
だって、僕たち日本人が都市化により、里を離れたり、建設に必要な木材を植えたもののお金にならないからと管理しなくなったり、危ないから、お金になるからと駆逐したニホンオオカミの存在であったり…
まあ、結局のところ、みんなの問題なんですよ。
ただ、可愛そうで放置していたら本当に問題は悪化の一途を辿ります。
なので、この記事の読んでくださった方だけでいいです。まずは。
(よければ他の人にも伝えてもらえれば嬉しいですが)
毎年60万頭ものシカを捕獲・駆除しているのにもかかわらず、9割はうめたて、償却処分をしている現実を知ってください。
肉だけの利用でこれですが、皮や骨などの利用になれば1%にも満たいないでしょう。
もちろん、簡単に利用しろって話ではないです。僕もトータルに利用する仕事をしていますが、やはりハードルは他に比べて圧倒的に高いです。
ただ、事実日本全国でその利用を促進しようという動きが各地で始まっています。とても素晴らしいことだと思います。
ある日、居酒屋のメニューに『鹿肉のタレ漬け』みたいなのがあった時、
ネタのひとつと思って食べてみてください。
レザーのカバンを見つけた時、イタリアンレザーより、『ニホンジカレザー』の商品を手にとってみてください。
それが今回の問題を解決することに繋がると、僕は思っています。