こんにちは!ジビエライターのあかりんご(@akaringo252588)です!
令和2年度は、なんとイノシシの捕獲頭数が過去最高記録を更新したようです。
捕獲されたイノシシは、美味しくお肉になったり、ワンちゃんが食べるペットフードになったりと様々に利用されています。
ですが、そんな活用方法の中に、堆肥にするという方法があるんです。
「イノシシ堆肥化」と聞くと言葉のインパクトがすごいですね。
今回は、イノシシの堆肥化をどのように行うのか、そして実際の例なども紹介していこうと思います!
最後まで読んでいただけると嬉しいです!
イノシシ捕獲頭数は増加傾向にある
近年、イノシシの数は増えすぎている状態にあります。
加えてイノシシは、さつまいも畑や田んぼに入って農作物を食べてしまう害獣でもあります。
よって、現在はイノシシの数を減らすため、捕獲に対して報奨金が出るなど捕獲が推進される状況が続いています。
令和2年の猟期には、農林水産省により捕獲強化キャンペーンが実施されました。
捕獲強化キャンペーンは各都道府県で鹿、イノシシそれぞれの捕獲強化エリアを設定したり、捕獲に伴う予算支援をするなどの取り組みです。
この成果もあって、令和2年度にはイノシシで68万頭、鹿で67万頭と、捕獲頭数は過去最高記録を更新しました。
過去最高の捕獲頭数を更新したのは記念すべきことですね。
ですが、実は獲物がとれたその「後」が大変だったりするんです。
それは、捕獲した獲物の処理です。
捕獲の後には処理が必要
狩猟で鹿やイノシシを捕獲したら、何らかの処理が必要になってきます。
生態系への影響から、原則として獲物は持ち帰ることになっているからです。
その場で放置すると、廃棄物処理法における不法投棄とみなされることもあるそう。
よって、処理としては持ち帰ってお肉にする、食肉処理施設に運び込む、焼却場へ持っていく…などが行われます。
そして、その選択肢の一つとしてあるのが、堆肥化です。
イノシシを堆肥化!?
イノシシの堆肥化とは、イノシシを処理し、肥料として活用できる状態にすることです。
個体丸ごともしくは食肉利用された残渣などが堆肥化できます。
堆肥化するために行うのはレンダリング処理。
これにより、サラサラのパウダー状、つまり肉骨粉(にくこっぷん)になるのです。
レンダリング処理によって肉骨粉へ加工
レンダリング処理とは、脂肪を除去してサラサラにする処理のことです。
レンダリングの語源である「render」には脂肪を溶かす、溶かして採取するといった意味があります。
この処理では高温で加熱した後に圧をかけ絞ることで、原料が脂と残りの固形物に分離できるのです。
イノシシだけでなく、牛や豚など家畜の残渣に対してもこういったレンダリング処理が行われています。
こうした家畜の場合には、施設でグツグツ煮込んで油を抽出した後、乾燥させて肉骨粉にします。
イノシシの場合、一頭丸ごと投入することもあるため、油脂の抽出はせず直接肉骨粉にしてしまう施設もあります。
高温高圧で処理するから安全
でも、野生動物をそのまま堆肥として循環させて安全性は大丈夫?
こう思われた方もいるのではないでしょうか。
まさしくその通りで、最近よく聞く資源循環は、安全性が前提にないと恐ろしい結果を招くことになります。
イノシシ資源を循環させる場合は、E型肝炎ウイルスや食中毒菌が残ったまま畑に撒かれるといったリスクも考えられるでしょう。
ですが堆肥にする過程、つまりレンダリングでは原料が高温・高圧で処理されています。
その温度は、100℃以上になることもあるのだとか。
これにより殺菌されるため、安全に堆肥化できるんですね。
実際の事例をいくつか紹介!
それでは実際の事例をいくつか紹介したいと思います。
まずは長崎県の自治体が運営している処理施設です。
ここではイノシシを堆肥として利用するのではなく、魚の餌にしているようです。
餌の中にイノシシの肉骨粉を混ぜたのち、魚が食べやすい形に加工した配合飼料を作っています。
この飼料は長崎県の主要な養殖魚であるブリやトラフグに与えられました。
こういった試験的な取り組みの結果、イノシシミールが多く含まれた餌ほど魚が多く引き寄せられたことが分かりました。
次に佐賀県の例です。
ここでは、レンダリング処理をしたイノシシの成分検査を行っています。
すると植物の成長に必要な窒素、リン酸、カリが含まれていることから野菜の栽培などに向く栄養価の高い肥料になると考えたそうです。
処理方法は灯油を用いて乾燥させるというものです。
1時間に10L使用して、乾燥炉を熱しながら回転させ粉砕します。
まだ実用化には至っていませんが、地域資源として農家に供給することを目指して取り組んでいるようです。
豆知識:鹿は資源化できないのはなぜ?
これまでイノシシの堆肥化について説明してきましたが、鹿はどうなのでしょうか?
結論から言うと、鹿は資源化が禁止されています。
肥料にも、飼料にも活用することはできません。
それは、2001年に発生したBSEという牛の病気が原因です。
この病気の原因は、脳や脊椎などに蓄積する異常なタンパク質です。
実はこのタンパク質、高温・高圧で処理しても、分解されず残るといわれています。
そして、この病気は牛と同じ仕組みで、鹿同士でも感染・伝播します。
よってもし病気が発生した時に、その病原体が飼料や肥料に混入しないように肉骨粉の利用は禁止されているのです。
ちなみに、現在日本で鹿にかかるこの病気は見つかっていないので、あくまで予防の一環です。
害獣から資源への道のりは近くて遠い
イノシシや鹿の頭数を減らすため捕獲が進んでいきますが、減りすぎない限りは狩猟によって個体数を調整する必要があります。
よって捕獲個体を処理するための、持続可能で価値を生む仕組みも必要になってきます。
今回は、その手段の一つとしてのイノシシの堆肥化をご紹介しました。
これだけ聞くと夢のような方法だ!と感じる反面、実際には処理に大量の灯油が必要です。
循環はするけど化石燃料が大量に必要。
なんだか少し矛盾しているとも感じます。
イノシシをはじめとする野生動物が、害獣から資源へ転換するために道のりは、近くて遠い。
ですがその可能性を、もっと探っていけたら良いなと思っています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!